「超伝導研究の現状と進展」 内田慎一(東京大学名誉教授)
HTSフォーラムのホームページの場を借りて、私がここ2年ほどの間に作成したPPTファイルを
順次アップさせていただくことになりました。
2013年東京大学を定年後、日本の高温超伝導研究コミニュティーの皆様と接する機会が殆んどありません。
また、科研費の重点領域、特定領域、新学術が途切れてしまったため、
1)高温超伝導研究の現在の課題、2)高温超伝導はどこまでわかったか、
3)その果実を今後の高温超伝導研究にどう生かすか、に関して議論する機会が著しく減少してしまいました。
30年前に火を付け、その後の研究を牽引してきた我が国の高温超伝導研究が、
このままでは「ガラパゴス化」し、国際的な存在感を失う恐怖を感じております。
例えば、銅酸化物における電荷秩序(CDW)が何故、現在の高温超伝導研究の中心的課題となり、
高温超伝導発現にどのような意味をもっているか、物理学会など国内の場で議論されたことがあるでしょうか?
私は銅酸化物の研究においては未だ「現役」です。
国外の多くの共同実験者たちとの議論、情報交換を続けており、最新の研究動向を
(主要ジャーナルのエディターの方針を含めて)よくわかっているつもりでおります。
2015年2月に、B. Keimer, S.A. Kivelson, M.R. Norman, J. Zaanenとの共著で発表したレビュー
(Nature 518, 179 (2015)) は高温超伝導研究の進展を一般読者にしらせるべく、エディターからの依頼で書いたものです。
高温超伝導研究の現状と進展をまとめるのは難作業で、このレビューの脱稿までには1年半もの時間を要しました。
QCPの存在の有無、擬ギャップの正体、Tcが高い理由など主要課題では、できる限り統一見解にもっていくため
膨大な実験・理論の再検討と様々な視点からの解釈を行いました。
そのおかげで、30年間の研究成果の再評価、それらの有機的つながりを考える良い機会を得ることができました。
妥協の結果、いくつかの部分では「面白くない」記述になっていることは否めません。
しかし、レビューの主眼は、「実験の進展のおかげで高温超伝導の理解がかなり進んだ」ということを
広汎な読者に訴えることに置かれています。高温超伝導を30年近く研究しても、
わからないことが増えただけで、結局、最初から何も進んでいないではないかという批判を深刻に考慮したものです。
このレビューと同期するように、200 Kで超伝導の兆候を示す超高圧下の硫化水素や
Y系銅酸化物の「瞬間室温超伝導」という新展開がありました。高温超伝導研究が新たな時代に突入したサインと捉えています。
田島さんをはじめHTSフォーラムの責任者の方々の了解を得てホームページにアップさせていただくファイルは、
上記のような背景と目的の下、レビューの内容をより専門家向けにしたものです。
幸い、私は、多くの雑用から開放され、海外滞在で雑音からも開放されていますので、
考察と実験結果の整理に充分な時間を割くことが可能でした。ただし、5名で書いたNatureのレビューよりも
かなり「内田色」がかかっています。そのため内容に違和感をもち、疑問や反論をお持ちの方も
多くいらっしゃると思います。疑問や反論、あるいは要望は大歓迎です。
HTSフォーラムあるいは直接私(uchida@lyra.phys.s.u-tokyo.ac.jp(※大文字@を小文字@に変更して下さい))にお寄せいただければ、ファイルに反映させていただきます。
また、「公開討論」という形で議論をホームページに載せることができれば、フォーラムの活性化につながるものと考えます。
初回に掲載させていただくのは、超伝導関係者一般向けに行った講演のファイルです。
ISTEC (SRL)が本年解散し、新たに産総研・AIST内にASCOTという組織が発足しました。
その準備段階でのASCOT応援のための講演です。今後、月1回程度のペースで、
「擬ギャップの起源について」、「銅酸化物の瞬間室温超伝導」、「Tcはどこまで高くなるか」、
「銅系と鉄系高温超伝導の統一的見方」、等々を順次アップさせていただく予定です。
(第1回) 超伝導材料研究の歩みと今後への期待 (2016年7月28日)
(第2回) 擬ギャップの起源について (2016年10月1日)
(第3回) 高温超伝導はどのように生まれるか? (2016年10月29日)
(第4回) 銅酸化物の瞬間室温超伝導 (2016年12月2日)
(第5回) H3Sの高圧下高温超伝導 (2017年2月23日)
(第6回) FeSe単層膜の高温超伝導 (2017年2月23日)
(第7回) Fe系超伝導体の対形成@ (2017年7月3日)
(第8回) Fe系超伝導体の対形成A (2017年7月3日)
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